「ぶどうを煮詰めた時間」を感じるソース──モスト・コットを味わおう
弊社、ノウタスでは普段からぶどうを扱うことが多い。
日々ぶどうを扱う中で気になってくるのが生ではない食べ方、つまり「どう加工するか」ということだ。
ジャムやジュース、ドライフルーツはもう定番。
もう少し変わり種で、“料理の中で生きるぶどう”を探したいと思っていた。
そんなとき出会ったのが、イタリアの調味料モスト・コット(Mosto Cotto)。

瓶の口を開けた瞬間、ふわっと甘い香りが立つ。中にはどろっとした何かが入っている。
この黒い何かの中に、ぶどうの可能性が詰まっていた。
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モスト・コットは何者か
モスト・コットは、イタリア南部で古くから作られてきたぶどう果汁を煮詰めた調味料である。
砂糖も添加物も使わず、ぶどうの果汁だけを火にかけ、数時間かけてじっくりと煮込む。
「Mosto」は搾りたての果汁、「Cotto」は“煮詰めた”という意味。
つまり、ぶどうの旨味をそのまま濃縮したものだ。
もともとは、ワインにする前の果汁が余ったときに作られた保存食だったらしい。
秋の収穫のあと、家庭で果汁を煮詰めて瓶に詰める、そんな日常の中から生まれた調味料であるということだ。
その素朴な始まりが、今では料理の隠し味として一定の地位を得ている。
バルサミコ酢の原料でもあるらしい
実はこのモスト・コット、伝統的なバルサミコ酢の原料でもある。
バルサミコ酢は、まずぶどう果汁を煮詰めてモスト・コットにした後、
それを発酵・熟成させることで作られる。
つまりモスト・コットは、いわば「バルサミコの手前の姿」。
発酵させず、煮詰めたままの状態で瓶詰めしたのが、この調味料だ。
そのため、酸味よりも甘味とコクが際立ち、より素直にぶどうの果実味を感じられる。
今回使ったのは、イタリア・プーリア州のパレンテ(Parente)社のモスト・コット。
ぶどうはトレビアーノ種とボンビーノ種の2種類が使われている。
トレビアーノは酸味がしっかりしていて、ワインやビネガーの原料にもよく使われる品種。
一方のボンビーノは、果実味がやわらかく、香りが穏やかだ。
この2つを煮詰めることで、すっきりとした酸味と深い甘味が共存する味わいになる、ということらしい。
そのまま舐めてみよう
瓶を傾けると、黒蜜のような液体が出てきた。
液体はどろっとしていて、スプーンを傾けてもすぐには落ちない。
香りを嗅ぐと、プルーンのような熟した果実の香り。
口に含むと、ブランデーのような甘味と、カラメルを思わせるほのかな苦味。最後にスモーキーな余韻が残る。
全体として、とても複雑で落ち着いた甘さだ。
どんな料理に向いている?
使い方はバルサミコ酢に似ているが、酸味が穏やかで、甘味とコクが主役になる。
つまり、「焦げ目」や「煮込み」と相性がいい。
たとえば、
- 牛やラムなど、赤身肉の煮込み料理
- 鴨や豚のロースト
- 熟成チーズに数滴
- そして、アイスやパンナコッタなどのデザートにも
ドレッシングやデザートにも使えるが、個人的には「火の通った料理」に入れるほうが断然映えると思う。
牛スネ肉とラムの赤ワイン煮込みに入れてみた

今回は、牛スネ肉とラムを使った赤ワイン煮込みに試してみた。
香味野菜(ミルポワ)を炒め、しっかり焼いた肉を加え、2時間ほどフォンドヴォーで煮込む。
仕上げに、5人分に対して大さじ1のモスト・コットを入れた。
味見すると、
「急に“完成形”に近づいた」感じがした。
それまでばらけていた酸味と旨味が、すっと一本にまとまる。
赤ワインだけでは出せない“色気”が出るのだ。
スーツ姿に最後のネクタイを結んだ瞬間のような整い方。
主張しすぎず、でも全体を格上げする。そんな名脇役だ。
モストコットは「時間の濃縮液」
モスト・コットは、一言で言えば「煮詰めた時間を味わうソース」だ。
料理に少し加えるだけで、味が落ち着き、香りに奥行きが出る。
それでいて主張しすぎない。
まるで、料理の影にそっと寄り添うような存在だ。
今回はじめてお目にかかったが、隠し味界の大御所の風格を感じた。今まで知らなくてごめんなさい。