私の心を掴んで離さない、愛媛の絹かわなすについて語らせてくれ
なすは、かなりすごい野菜である。
焼けば香ばしく、煮ればやわらかく、揚げれば油を抱き込んでとろける。
和食、洋食、中華。どの食文化に旅行しても現地に馴染んでしまう。
野菜界のオールラウンダーである。
しかもただ合わせやすいだけではない。なすは味を吸う。油を吸う。出汁を吸う。味噌も、トマトも、にんにくも、豆板醤も、スポンジのように受け止める。
受け止めたうえで、最後はちゃんとなすの存在感と一体化する。
この「なんにでも合うのに、ちゃんとなすである」というところが、私は昔から好きだ。
その中でも、愛媛の絹かわなすは特に好きである。
もちろん普通のなすも好きだし、長なすも米なすも好きだ。
ただ、絹かわなす、君はちょっと特別なのだ。
といっても高嶺の花のように扱いづらい野菜ではない。
むしろ焼く、煮る、揚げる、炒める、どれでもおいしくなる。懐の底がしれない。
名前もいい。絹かわなす。
いかにもなめらかで、やわらかそうで、食欲をそそるのだ。
実際に包丁を入れると、その名前が大げさではないことがわかる。皮が薄く、刃がすっと入る。
身はみずみずしく、切った断面にはいやなえぐみの気配がない。
アクがほとんどなく、加熱すると夢みたいにとろける。
さらに糖度が高く、料理にしたときに、あとからほんのり甘みが出る。
果物のようにわかりやすい甘さではない。食べた瞬間に「甘い!」と叫ぶようなものでもない。
出汁の奥、味噌の中、辛い餡の後ろ側で、静かに甘さをたたえている。
料理に合わせて姿を変えるのに、最後に「でもこれは絹かわなすだったな」と思わせる。
なすの万能さをそのまま持ちながら、皮の薄さ、アクの少なさ、とろける火入れ、甘みが、ひと段階上にあるのだ。
今回はそんな絹かわなすをいただく機会に恵まれたので、調理しながら魅力を語りたいと思う。

献立は焼き浸し、味噌汁、麻婆茄子だ。
どれもなす料理としては定番だが、絹かわなすの特徴に合わせて火入れを変えると、少し印象が変わる。
調理前には、皮に丁寧に切り込みを入れる。絹かわなすは皮が薄いので、深く入れすぎる必要はない。浅く、細かく、火と味が入りやすいようにする。皮がデリケートだからこそ、ここは少し丁寧にやりたい。
Contents
焼き浸しで、絹かわなすの実力をまっすぐ味わう
まずは焼き浸し。

大きく切った絹かわなすを、油で焼く。
中火で焼き目をつけながらしっかり火を入れる。
合わせるのは、かつおと昆布の出汁。そこに酒・醤油・塩・みりんを加え、焼いたなすを浸す。
焼いたなすが出汁を吸っていく様子は、何度見てもいい。とくに絹かわなすは身がやわらかいので、出汁の入り方が早い。
箸で持つと形はあるのに、もう中はかなりとろけている。
食べると、皮の引っかかりがほとんどなく、アク抜きをしていないのにえぐみも感じない。
出汁、油、なすの甘みが一緒になって、口の中でほどける。
焼き浸しは、絹かわなすのよさがかなり素直に出る料理だと思う。
味噌汁で、とろけた揚げなすを味わう

次は味噌汁にしてみた。
今回は絹かわなすを揚げなすにして、ネギとお揚げと合わせた。
なすの味噌汁にお揚げが入ると、急に「ちゃんとした汁物」になる感じがある。そこに揚げなすが入ると、さらに一段コクが出る。
なすは縮むことを考慮して少し厚めに切り、多めの油で揚げる。全面にこんがりと色がつくまで火を入れる。
出汁にネギとお揚げを入れ、味噌を溶いたあと、最後に揚げなすを合わせる。
最初から煮込まないのは、絹かわなすのとろけ方を残したかったからだ。
汁をすすむと、味噌の塩気の中に油のコクがあり、そのあとでなすの甘みがくる。
ネギの香り、お揚げのやわらかさ、揚げなすのとろみが重なって、一見地味だがかなりうれしい味噌汁になった。
味噌汁に絹かわなすが加わると、いつもの一杯が少し特別なものになる。
麻婆茄子だ!デッカイなすをくらえ!

この記事を書くにあたり人生で一番「なす」と書きました。
最後は麻婆茄子である。
ここでは絹かわなすを10cm大とかなり大きく切った。
皮に切り込みを入れ、強火で焼き目をつけながらサッと揚げ焼きにしてから餡と合わせる。
絹かわなすの大きさを味わうために、縮まないよう配慮した火入れである。
餡は強めの味付けにした。
豚ひき肉、豆板醤、甜麺醤、豆豉、花椒。なすに遠慮する気のない餡である。
普通なら、なすはこの中で脇役になりそうだ。味を吸って、やわらかくなって、全体をまとめる存在になる。(それはそれでおいしいと思う。)
しかし絹かわなすはそこで終わらない。
揚げ焼きにした大きな身が、味の強い餡をまとっても主役を張っている。
むしろ、なすを味わうために強めの味付けにしたのが正解だった。
口に入れると、最初に豆板醤と花椒の勢いが来る。そのあと、絹かわなすのとろける食感と甘みが残る。
麻婆茄子でここまでなす本体を食べている感じが残るのは、絹かわなすならではだと思う。
絹かわなす、なすofなす
なすそのものが、和洋中なんでも合うオールラウンダーな野菜である。
出汁にも味噌にも、トマトにもチーズにも、豆板醤にも花椒にも合う。
そんな中でも、絹かわなすはとにかく調理法を問わない。
皮が薄いので口当たりがよく、アクが少ないので味が濁りにくい。加熱するととろけるが、大きく切ったり、先に焼いたりすれば、料理の中で形も残せる。糖度の高さは、和食の出汁にも、味噌汁にも、中華の強い餡にも合う。
これだけ調理法を変えても、どれもちゃんとおいしい。
それどころか、料理ごとに違うよさが出る。
だから私は絹かわなすが好きなのだと思う。
食べ終わったあとも、まだ別の料理を考えている。
田楽にしたらどうだろう。ラタトゥイユに入れたら、トマトの酸味と甘みがどう出るだろう。グラタンにしてチーズと合わせたら、皮の薄さはもっと活きるだろうか。蒸して冷やして、生姜醤油で食べてもよさそうだ。
見かけたら、ぜひ手に取ってみてほしい。
