英語が通じないインドの山奥でホームステイ。有機農業のリアル。子ヤギ、かわいい。
インドの山奥、見渡すかぎり連なる山々に囲まれた谷間に、ポツンと建つ一軒の家。
今回僕がお邪魔したのは、そんな人里離れた場所で暮らす先住部族のご家族のお家です。
英語は一切通じません。スマホの電波も怪しい環境で、言語によるコミュニケーションは完全にゼロ。身振り手振りと表情だけを頼りに、丸一日その家族と一緒に過ごすという、なんともワイルドなホームステイを体験してきました。
言葉が通じない戸惑いから始まった滞在でしたが、そこで目にしたのは、自然とともに生きる暮らしの豊かさと、世代を超えてアップデートされる「有機農業のシビアな現実と工夫」でした。
(あ、あと子ヤギです。)
Contents
山奥にポツンと建つ、壁のない家での自給自足
車に揺られてたどり着いたのは、3つの中くらいの山に囲まれた静かな場所。そこにポツンと1軒だけ建っているのが今回のお家でした。
案内されて驚いたのがその造り。「屋根はあるけれど、壁はない」という、ほぼオープンエアな建築です。

家に着くと、まず大きめの台のようなものをドンと出されました。そこに座れということなのか、荷物を置けということなのかすら分からないのですが、身振り手振りに合わせてとりあえず腰を下ろしてみます。
彼らの暮らしは、徹底した自給自足がベース。
敷地には大きな井戸があり、そこから澄んだ水を汲み上げて生活しています。畑には生き生きとした野菜が育ち、庭先には家畜たち。牛が4頭、ヤギ、そして鶏がのんびりと歩き回っていました。

「食え、飲め、寝ろ」のおもてなし
何をしたらいいのか全く分からないまま、とにかくそこに座って家族の営みを眺めていたのですが、彼らのおもてなしはとてもストレートでした。
「チャパティうまいぞ!」
「チャイ飲め!」
「蜂蜜うまいぞ!」
「瓜のスープだ!」
「さぁ、寝ろ!」
言葉わからないのですけど、とにかくこういうことを言われてたはず。

すべて言葉ではなく、ジェスチャーと笑顔で繰り出されます。
難しいことを考える余地など一切ありません。差し出されたものを美味しくいただき、言われるがままに軒下の台でゴロゴロする。なんだか子どもの頃に戻ったような、不思議な安心感に包まれていきました。
父から息子へ。化学肥料から「完全オーガニック」への挑戦
そんな豪快な暮らしの裏側で、非常に興味深い話を聞くことができました(ここは事前にコーディネーターの方に間に入ってもらい、詳しく教えてもらいました)。
彼らは自分たちが食べる分だけでなく、野菜を街へ出荷して生計を立てています。
もともとお父さんの代では、化学肥料を使った一般的な農法で野菜を育て、街の市場(マーケット)にそのまま卸していたそうです。
ところが、現在の息子さんの代になってから方針を180度転換。農薬や化学肥料を一切使わない「完全オーガニック(有機栽培)」に切り替え、自然の循環を生かしたエコサイクルな農業を始めたというのです。
世代交代に伴うコンセプトチェンジ。お父さんと息子さんの間で、一体どんな話し合いやすれ違いがあったのだろう……と思いを馳せずにはいられませんでした。
市場を通さない。30〜40世帯との「直契約」という答え
とはいえ、有機農業への転換は決して簡単な道ではありません。
化学肥料を使わなければ品質のばらつきや病虫害への対応も難しくなりますし、何より収量が安定しづらい。それだけ手間とコストをかけて育てても、通常の卸売市場に持っていってしまえば、他の一般的な野菜と同じように買い叩かれてしまうリスクがあります。
「そのあたりの採算はどうしているんだろう?」と疑問に思い尋ねてみると、息子さんは流通の仕組みそのものを変えていました。
彼は、街の一般市場には野菜を出荷していません。
代わりに、オーガニック野菜に関心のある街の家庭(約30〜40世帯)や、理解のあるレストランと直接契約を結び、ダイレクトに卸していたのです。街までは結構距離があります。営業努力を感じました。
手間をかけて育てた価値を正当に評価してくれる相手に、直接届ける。
これは日本の有機栽培農家さんが直面している課題や取り組みとも全く同じ構図です。「良いものを作ること」と同じくらい、「どう届けて、どう売るか」というマーケティングの設計が欠かせない。海を越えたインドの山奥の部族の暮らしからも、農業ビジネスの本質を突きつけられた気がしました。
ふわふわの子ヤギと、まさかの「睡眠最高スコア」
……と、頭ではそんな真面目なことを考えていたはずなのですが、実際の滞在で僕の身体と心を一番支配していたのは、別のことでした。
子ヤギの可愛さです。

生後間もない子ヤギがいたのですが、これがもう、とにかくふわっふわで柔らかい!
中型犬くらいのサイズ感で、抱き上げるとすんなり腕の中に収まってくれます。そして何より驚いたのが「匂い」。獣臭さのようなものは一切なく、ほんのりと甘い、あたたかいミルクのいい香りがするんです。抱っこしているだけで、全身の余計な力が抜けていくのが分かりました。
夜は、壁のない軒下のような場所で、星空を見上げながら眠りにつきました。
翌朝、毎日着けているスマートウォッチで睡眠ログを確認して驚きました。「過去最高の睡眠スコア」を叩き出していたのです。
言葉が通じないから余計な会話もしない。スマホも見ない。
子ヤギの柔らかい毛並みやミルクの匂い、風の音や土の匂いを五感で感じて、暗くなったら寝る。
便利な情報や刺激にまみれた都会の生活から離れ、人間の感覚をそのまま解放する時間が、どれほど贅沢なものかを実感した一夜でした。
有機農業を持続可能にするための「直販モデル」というリアルな学びと、五感で味わう圧倒的な癒やし。
インドの山奥で過ごしたこの1日は、頭にも体にも、長く残り続ける特別な体験になりましたとさ。
